八百屋が教える市場取引③〜プロ同士がせめぎ合う卸売場とは?〜

    今回は、前回のブログでお伝えした買参権取得のメリットについてお伝えしていきます。買参権を取得するメリットの一つ目としてあげた、卸売場で直接卸売会社から買うと仲卸業者(仲介業者)の手数料分が安くなるということについては、意外とケースバイケースだったりします。その理由については大きく次の二つがあります。

①卸売場では”ケース買い”が原則であるため、それほど数量が必要でない場合には逆に損するリスクが発生する

②同じ品物でも卸売会社よりも仲卸業者から購入する方が安い場合がある

 ①について、卸売場で卸売会社から直接商品を仕入れる場合、基本的にはケース単位での購入となります。

 一方で、仲卸業者の主要機能として、”商品の小分け機能”というものがあり、ケース単位で卸売会社から仕入れた商品を仲卸事業者は1個単位から販売してくれます。

 お店の規模が小さい場合や、飲食店などへの納めの場合でそれほど数量が必要のない場合、ケース買いをするよりは、多少場内で仕入れる場合の商品の単価より高くても(ロスするリスクを考えると)仲卸から必要量をピンポイントで購入する方が最適な場合も多かったりします。

(例えばパセリ1袋という注文があった場合、卸売場だと10袋購入しなければいけないのだが、残りの9袋が売れなかったりすると大きな損がでます)

 ②について、「なぜ直接卸売会社から買える(仲卸業者へ仲介手数料を払う必要がない)のに、仲卸業者から買う方が安くなるの!?」と思われるかもしれませんが、そのことを説明する上で重要なこととして、卸売市場では、”利益率をどう高めるか”というよりは、“数量を動かしてなんぼ”という思想のもとに動いていることを理解する必要があります。

 これは卸売事業者の販売形態が、委託販売であり販売手数料が、野菜は販売価格の8.5%、くだものは7.0%と実質固定されていること、市場の機能として入荷した青果物をできるだけ素早く消費地の需要家へ流す(在庫をできるだけ持たない)役割であるということが大きいと思います。

(ただ、最近は、卸売事業者による買い付け販売も増えてきたり、市場が在庫を持てるよう冷蔵倉庫などの設備を新設することも多いのですが、この辺りの詳細は別のnoteで説明します)。

 したがって卸売会社としては、委託販売形式の中で、とにかく量を動かす(商品の回転率を上げる)ことが自社の利益をあげる近道となります。

 もちろん販売単価をあげるということも会社の収益向上につながるのですが、販売単価をあげるというのはそれぞれの商品の細かい理解からはじまり、バイヤーへの商品の地道なブランディングなど時間のかかる作業であることが多く、卸売事業者の営業担当者(青果を販売する人)の多くが敬遠しやすいです。

(というか単純に苦手なのだと思いますが、いずれにしても今の時代に最も卸売事業者へ求められている、商品の販売単価をあげるための努力を地道にできる営業担当者は結構少ないです)

 また、取り扱う青果物の付加価値を上げるのではなく、”数量を動かしてなんぼ”という思想ができたその他の理由としては、一般消費者の青果需要が大きかった一昔前の事業環境(当時は外食や中食などが今ほど普及しておらず、大家族が毎日家で自炊しており、八百屋でお客さんが買う1回の量もじゃがいも1ケース(10kg箱)単位とかだったりしく、どんなバカでも商品を仕入れられれば売れたすばらしい時代だったらしいです・・・)をいまだに前提としている青果流通業界(特に市場流通)の考え方が根底にあると思っています。

 このことは実は業界(市場流通)にはびこる結構深刻な負の習慣(考え方)だと個人的には思っているのですが、この辺りの議論は今回の本題ではないので、別の機会にしっかりと書きたいと思います。

 いずれにしても上記の理由から卸売市場では数量をたくさん購入してくれる事業者に対しては大きなボリュームディスカウントが存在します。仲卸業者の購入量は当然一般の買参人(八百屋さんなど)よりも大きくなるため、卸売会社から大きなボリュームディスカウントを得やすくなります。

 このディスカウントにより、手数料を払ってでも仲卸業者から仕入れる方が、卸売事業者から直接自分で少量(量が少ないとディスカウントが受けづらい)を仕入れるよりも安いという場合も結構発生したりするのです。

 このあたりが、業界の外の人が思っている”仲卸(仲介業者)使う必要ないでしょ”という考えと、実際の青果市場での取引の大きなギャップでもあったりすると思います。

 次回は買参権を取得するメリットの2つ目である、”鮮度の良い品物を買える可能性が高くなる“についてお伝えしていきます。