前回のブログでは、現在の市場取引において”相対取引“と”事前注文(取引)“の重要性や割合が高まっていることを説明しました。今回は市場でそうした取引を行うにあたって最も重要な事実をお伝えします。
市場仕入れにおいては・・・
(卸売会社の)販売担当者に嫌われたらThe End
という悲しい事実です。
競売で公平に値段が決まるセリ取引とは異なり、相対取引ではそれぞれの買参人への販売価格は各担当者個人の裁量で決定されます。
また、事前注文については、産地から市場へ入ってくる商品の入荷量が買参人から受けた事前注文量を満たしていれば問題はないのですが、天候の影響をモロに受ける青果流通においては、常に注文量を十分に満たすだけの数量の荷物が入ってくるとは限りません。
そんなときは当然、担当者が注文者に優先順位をつけて荷物を振り分けていくのですが、この優先順位も基本的には担当者個々人の裁量で決定されます。
この個人の裁量とはすなわち、”担当者の好き嫌い“と言い換えられます。

もしあなたが卸売会社の担当者だと仮定しましょう(ここではキャベツの担当者ということにします)。
あなたの取り扱っているキャベツを買いたいという買参人Aと買参人Bがいたとします。二人の希望する購入数量は同じ5ケースです。買参人Aはとても明るく気さくな人柄で、(相手の年齢に関係なく)いつも丁寧に挨拶をしてくれる。話をしていてもとても面白いです。そしてキャベツの入荷量が多く市場に品物が溢れて売り先に困っているときなんかは、本来であればAにとって必要のない量を無理をして引き取ってくれたりして助けてくれます。
一方で、買参人Bは基本的に根暗。会社のお偉いさんにはヘコヘコしているが、自分には挨拶もしないどころか常にとても横柄な態度をとってきます。話はいつも自分の自慢話で面白くもなんともありません。キャベツの入荷量が多くて困っているときは、自分が必要な量以外は絶対に買ってくれません。
販売価格はあなたが自由に決められる場合、買参人AとBが値引きをお願いしてきたときに同じように対応するでしょうか?
また、事前注文で買参人AとBそれぞれから翌日分のキャベツ10ケースの注文がきたとします。産地の天候不順により市場へのキャベツの入荷量がガクッとおちて、当日の実際の入荷量は全部で10ケースしかなかったとします(事前注文はAとBで合計20ケース入っています)。
入荷量10ケースの振り分けはあなたが自由に決められる場合、あなたは買参人AとBに対して公平に5ケースずつ振り分けるでしょうか?
程度の差はあれ、実際の市場取引では、販売価格はAとBで差が出ますし、前注文に対する振り分けもAに10ケース、Bには0ケースということになると思います。また、担当者の好き嫌いに限らず、買参人の経験の長さ(付き合いの長さ)、年齢、購入数量など様々な要素によって担当者のスタンスや姿勢は変わってします。
その昔、自分が市場仕入れをし始めた頃は、いくら事前注文を前日に入れても担当者が注文した品物をとっておいてくれなかったことも多々ありました(何度悔し涙をながしたことかw)。
ただ、そこで担当者に怒っても余計嫌われるだけなので(もちろん強く言うことも大切な場面もあるが)、粘り強く人間関係をつくっていった末、事前注文をいれると常に注文した数量をとっておいてくれるようになりました。
また、基本的には市場の最も上流で荷物を販売する卸売会社は、独占禁止の観点から少なくとも各市場ごとに最低2社以上は存在していたのですが、近年では卸売会社の合併、撤退により市場に卸売会社が1社しか存在しないという市場も多くなってきました。
仮に市場に1社しか卸売会社が存在しない場合、買参人はその卸売会社からしか商品を仕入れられないし、卸売会社も販売価格については競合がいないので好きに値段がつけられるという状況が発生します。

大田市場や豊洲市場などの比較的大きな中央卸売市場をのぞいて、実質市場に1社しか卸売会社が存在しない市場が増えてきており、今後市場内における卸売会社1社独占という構図は増えてくるものと思います。
以上をまとめると、相対取引、事前注文取引の占める割合が大きくなっている現在の市場取引では、卸売会社の各担当者との人間関係が、仕入れの成否に大きな影響を及ぼすというのが実情です。
ここで卸売事業者最強説が浮上してくるかと思うのですが、そうシンプルでないのが青果流通の難しくもあり、面白いところでもあります。次回はそうした市場内における事業者間の力関係についてお伝えしていきます。