これまでの〜八百屋が教える市場取引〜シリーズでは、市場仕入れの基本知識である卸売市場の売場の種類や取引形態、事前注文取引などについて説明してきました。ここからは実際八百屋がどのように市場で仕入れを行なっているのかについて、具体的な八百屋の一日のスケジュールと一緒に解説していきます。
八百屋(青果店八彩)の一日のタイムスケジュールは下記の通りです。
<八百屋の一日のスケジュール>
AM4:30 起床
AM5:00 市場到着、相対取引で仕入れ開始
AM7:00 セリ取引開始
AM7:30 仕入れた荷物の回収
AM8:00 市場を出発
AM8:30 店舗到着、荷下ろし開始、陳列、パッキング、仕分け作業
AM10:00 店舗オープン
AM12:00 お昼休憩
AM13:30 他店舗分の追加パッキング、配送
AM16:00 販売ピーク
AM19:00 閉店、締め作業開始
AM20:00 帰宅
八百屋の朝は早い。なぜ早いのか・・・。
その理由は大きくふたつ
青果物は作り手や産地によって一つ一つ品物の質が異なるから
そして、市場での仕入れ(当日取引)は早い者勝ちだから
前回のブログ(詳しくは〜相対取引と事前注文取引について〜を参照)で解説した通り、市場仕入れには事前注文取引と当日取引の二つが存在すること、また、それぞれのメリット・デメリットを説明しました。
小さな八百屋が、仕入量が大きく肉や魚、加工品なども扱っているスーパーなどの量販店(巨艦のような存在)に勝つためには(消費者がスーパーではなく八百屋で青果物を買ってもらうようにするためには)、小さいがゆえ(小回りのきくこと)のメリットを生かして戦う必要があります。
そのメリットが最も発揮されるのが、当日取引です。前回のブログでも説明した通り、スーパーなどの量販店の最優先事項は品物を十分に揃える、すなわち確実に必要な品物を仕入れるということです。
そのため、当日の入荷量や入荷品目により必要な品物・数量の仕入れができたりできなかったりする当日取引は量販店にとってはリスクが高く、量販店の仕入れは基本的には事前注文取引によって行われます。
前回のブログでも説明した通り、事前注文取引はある程度確実に商品の仕入れができる一方で、仕入価格については流通事業者側に主導権があるため、すごく安い値段で仕入れをするということが基本的には難しくなります。
また、商品となる野菜や果物についても、実際に品物を確認して仕入れを行うわけではないため、品質の面でもバラツキがでたりもします。
一方で、一つの品目あたりの仕入量が比較的小さい八百屋にとっては、良質な品物を安く仕入れられる可能性のある当日取引がある意味(仕入れにおける)勝負の場となります。
下記では当日取引を中心に、八百屋の具体的な仕入れの流れやポイントを説明していきます。
<AM4:00〜AM5:30 市場に入荷した品物を把握せよ>
朝市場に到着すると、まずは事前注文を入れていないが、確実に仕入れをしたい品物(キャベツや人参、ネギ、レタスなど定番品が多い)を確保しにいきます。

市場は品目(野菜や果物の種類)によってそれぞれエリア(売り場)が分かれており、荷物のある場所にいくと通常であれば品物が積まれています(たまに需給が崩れて市場への入荷量が少ない場合、売り場に一つも荷物がなく愕然とすることもあります)。
荷物の上には、仕入表が置かれており、ここに自分の買参権の番号と欲しい数量(原則ケース単位)を記入し、品物にマジックで自分の番号と数量を書いておきます(荷物はあとでまとめて回収するため、一旦売り場の脇に置いておきます)。

市場によって仕入表に値段が記入されている場合もあれば、記入されていない場合もあります(弊社が仕入れをしている豊島市場は値段が記入されているのですが、他の市場では値段は記入されていないことがほとんどです)。
ここで普通の人なら、「値段が記入されていない場合どうするの?」となると思います(自分もはじめ値段が分からないのに他の買参人の人たちがどんどん仕入れていくのが意味がわかりませんでした)。
仕入表に値段が記載されていない場合には、とりあえず番号と数量を記入して品物を確保しておき、卸売会社の担当者が来た際に値段を確認する必要があります。
これも市場によって異なるのですが、各品目の担当者(卸売会社の社員)は通常6時前頃に出社してくるため、その時間までは値段がわからないけど、前日の相場などを踏まえながら、一旦品物を抑えておく(購入しておく)ということになります。
たまに前日から相場が急騰していて、品物を抑えていたは良いものの、その価格だったらこんな量絶対にいらないということもちょくちょく発生するため、値段の分からない状況で商品を購入するリスクはあります。
このようにして、仕入れの優先度の高い品物から卸売場で仕入れを行っていきながら市場を周り、その日の市場の入荷量と品物を頭にいれていきます。
市場は日によって入荷量や入荷する品物が異なるのですが、今日は全体として入荷が多いのか、少ないのかを理解することで、後ほど行う担当者との価格交渉のスタンスを判断していきます。
全体的に入荷量が多いと担当者としては、多少値段を下げても販売しなければならない状況でであり、逆に入荷量が少ないと値段を下げる必要がない状況となるからです。

また、上記で品物を抑えると言いましたが、ここが八百屋の目利き力が試される一つのポイントとなります。当然、青果物(農産物)というのは工業製品とはことなり、品物一つ一つが大きさや形、味などが同じネギ、トマト、キャベツであっても全て違っています。
一つ一つ異なっているものをそのままにすると、取引がスムーズにいかない、安定しないという理由で市場流通には”規格”という概念が存在します。この規格については賛否両論あり、語り出すとかなり長くなるので、ここでは規格というものがあるということを一旦説明しておきます。
規格は品目や産地によって異なっているため、唯一無二のコレというものはないのですが、通常は大きさと見た目で分けられることが多いです。
業界的にはこの大きさを階級(カイキュウ)、見た目を等級(トウキュウ)と呼び、ふたつを合わせて等階級(=規格)と呼んでいます。
階級は、大きい方から4L、3L、2L、L、M、S、2Sといった感じでいくつかのグループに分けられます。
等級は産地によって表示の仕方が異なりますが、代表的なものとしては、A、B、C、D、○(マルと読む)、地域によっては秀、優、良、果物などは秀(赤色で記載されてアカシュウと読む)、秀(青色で記載されてアオシュウと読む)など様々な等級が存在しています。



したがって、例えば、ネギの売り場であれば、千葉県産や茨城県産などのA3L、A2L、AL、AMといったネギが置かれています。
さらに同じ産地の同じ規格であっても、作り手である生産者によって品質が異なるのもポイントです。そのため、プロの仕入れ人は、それぞれの品目、産地ごとに質の高い品物を作っている生産者の名前が頭に入っており、こうした生産者の品物から早い者勝ちでなくなっていく傾向があります。
また、かなり抽象的な表現になりますが、同じ産地、規格のものでも、野菜やくだものによって元気さ、美しさがそれぞれ違います。

この元気さ、美しさを感じる力というのが、仕入れにおける目利き力だと言えるのですが、なんともこれ以上表現のしようがないのですいません(笑)
自分も市場に仕入をし始めたころは、この元気さ、美しさの違いはそれほど感じなかったのですが、経験を重ねるうちに(毎日野菜やくだものを見ているうちに)、一目で品質の良い野菜、そうじゃない野菜がわかるようになっていきました。
ただ、この元気で美しい野菜は、すべての八百屋(バイヤー)が一目惚れするため、(値段次第ではありますが)基本的には取り合いとなり、すぐになくなってしまいます。
次に実際の仕入れにおける卸売会社の担当者さんとのやり取りを説明していきたいのですが、すこし長くなりましたので続きは次回のブログでお伝えします。